[ CREATOR'S SNAP #6 ] ”デザイナーSHINJI I.to.U”-意識下の意識 Vol.1

SHINJI I.to.U

1990年三重県四日市出身。Chill で気持ちのいい音楽をテーマに楽曲をはじめ、映像制作、空間プロデュースを総合的に行うライフスタイルレーベル Chilly Sourse 在籍、都内在住のデザイナー。WEBデザイナーとして会社に務める傍ら、楽曲アートワークやタイポグラフィ作品を生み出す。2023年4月よりフリーランスデザイナーに。
INSTAGRAM : @shinji.i.to.u
CREDIT : Day pajamas - KHAKI×ORANGE
CAMERA : @mayo.K
COOPERATION :
@McLean OLDFASHIONDINER
@Warefaus

デザイナー心理の始まりー

「デザイナーのキャリアは今の会社に入ってから始まりました。デザイン系の学校に行っていたわけではないです。」
人文社会学科だという。
「今の仕事とは繋がってないように見えるが、単体の人ではなく、集団としての人間に関心があった。社会学の本質は、人がたくさん集まって生活を営んだ結果としてこういうことが起きるということを見つけたり、そこで起きる問題を解決しようとすることだと思っていて、デザインも、この広告を見たら人はこういう行動をとる、というように集団心理を扱う点においては共通する部分があります。”集団としての人”に対して、自分に合った関わり方を模索した結果が今なのかもしれません。」

(SHINJIさんオススメ蔵前スポット@McLean OLDFASHION DINER) 
「当時は意識していませんでしたが、絵を描くことは好きだったと思います。学校で描いた絵が市で表彰されたりもしていましたね。思い返してみれば、大学時代もダンスチームTやイベントフライヤーなど、視覚的なアウトプットをする機会が多かったです。」

無意識下の意識ー

無意識に好きだったこと。
だからこそ、それを仕事にしようという発想がなく、それを仕事にしていいとも思っていなかったという。

ーデザイナーになろうと思ったきっかけは何でしょうか?

好きなことを仕事にしたいと漠然と思っていたが、心からやりたいと思えることが見つからず、1年間大学を休学しました。そのころはダンスしかしてなかったです。
 
その一年の間にダンサーの知人が
「しんさん、デザイナーとか向いてそうですけどね。」
ポロッと出たその一言でデザイナーという仕事に気づけた。
無意識に好きなことだからこそ、それまで気づけなかったです。それに、ただただ純粋に面白いこと=遊びは仕事として成立しないという変な先入観もあったように思います。仕事って苦しいものだよね、っていう。
これまで遊びでしかなかったものが仕事になり得るんだ、と気づいてからはデザイナーになるために思いつく限りのことをやりました。ポートフォリオと呼べるかわからないものを制作し、美大出身でない自分を受け入れてくれる会社を探して、今の会社に。(運よく一社目で決まりました。)
デザイン業界の人からすると、アウトサイダーなポジション、外野から入ってきたやつですかね。(仲間内では野良デザイナーと言っています)

自己表現としてのダンスー

ダンスを始めたのは大学に入学してから。
学部の一個上の先輩で行われていた新歓期間で知り合った先輩と離れることが勿体無いと思っていた SHINJI さん。
その先輩方がたまたまダンスをしていたから、興味を持ちダンスを始めたという。



ーもっと昔からやられているかと思っていました。

「これまでやってきたこと全部そうなんですけど、始めた頃にはすでに同世代に置いていかれている状態が多かった。でも結果的にそれがよかったと思います。」
「遅れているとスタートダッシュ決めないといけないじゃないですか?スタートダッシュが決まったところでまわりも走り続けてるんで、ダッシュを緩めるタイミングがなくて、結果として自分のイメージ以上の速度で走り続けていられた気がします。 バトル・コンテストでファイナル(全国大会)に出場できて、人生で初めて自力で掴み取った成果を実感しました。スタートが遅れているぶん走る速度がわかりやすくてよかったなと。」

ーダンスに関しては仕事にしようと思わなかったですか?

周りにダンスを生業にしている人がいたから、ダンスが仕事になる可能性があるものという認識はありました。
ただ、ダンスは他の仕事をしながらでも続けられると思っていたのと、今ほど職業としてのダンサー像が確立されていなくて、レッスンを持つことが中心というイメージだったので、自己表現のためのダンスが仕事のためのダンスになってしまうのを恐れていた、というのもあります。
(今となっては、それは自分次第でどうとでもなる、ということに気づいたのですが当時はそうは思えなかった)

制作への想いー

ー制作をする上でのこだわりを教えてもらえますか?

スタンスの話になりますが、あとから後悔したくないので
今できることは全てやりきったか?と自問自答しながらやってます。
この くらまえ というタイポも一筆書きっぽい感じに見えますが、ソフトウェア上で数百回は書き直してます。
頭の中では早い段階でイメージは描けているが、それを実際に形にすることに時間がまだまだかかる。
妥協せず、時間を費やしてでもやり切ることを意識してます。

ーInstagram に投稿されていた「最高』もその一つですよね。

そうです、ただあれはリアルなメイキングではなくて、制作過程を知ってもらうために作品が出来上がってから動画用に作り直したものなので、本当はもっと時間が掛かっています。
 

https://www.instagram.com/p/CYluxr3PgEp/

不変性の表現ー

表現をしたり、作品を作っているが、そこまで絵が上手い方ではないという SHINJI さん。

「長く時間が経っても、デザインが持っている安定感が崩れないようにすることを意識しています。」
「図形で考えるとわかりやすいですけど、数百年前から、きっと200年後も、正三角形は正三角形だし直線は直線じゃないですか。その安定感にすごく惹かれる。恒久的なもの。視覚的に安定感のあるものがとても好きです。」
「手描きの絵と比べると、図形的なグラフィックは個性が出にくいと思っていて
そのぶん、造形だけではなく、どれだけ自分のコンセプトのせることができるかを意識しています。」

ーこれもそうですか?

そうです。
コンパスや定規があれば誰でも描けるものを、どれだけ作品として昇華できるか、ということに挑戦したものです。作品に安定感をもたらすために大事にしているのは図形だけではなくて、それ以上にコンセプトが大事ですね。
コンセプトという言葉の解釈はたくさんあるんですが、グラフィックにおいては "そのカタチである必然性" のようなものだと考えています。
例えば、『ここは禁煙です』って日本語で書いてみんなに伝わるならそれでいいけど、外国人観光客にも伝えたいと思ったときに、タバコに×の図の方が適切だね、となっていくと思うんですよ。
それは、かっこいいから絵にしたのではなくて、あるべき姿が絵だったということだと僕は捉えていて、そういう必然性から生まれた表現こそ安定感があり、長くそこに在っても揺らぎのないクリエイティブだと思うんです。
こういった思想がベースにあるので、見た目が良くても必然性がなければあんまりときめかないですね。
さっき話したタバコの例は極端ですけど、もっと独りよがりなものでもいいから、せめて自分の中では確固たる理由を持ってカタチにしたい。
これも tulip なんですけど、この幾何学なtulipの5文字を組み替えて花のグラフィックにしています。この五文字とチューリップの写真から抽出した色がこの作品に安定感をもたらしていると思っています。そうでないとただの図形なので、すぐに陳腐化してしまうと思います。


ーお話をお伺いしている中での疑問ですが、なぜタイポグラフィに触れることが多かったのでしょうか?

ビジュアル表現って、人物・キャラクター・抽象的なもの、いろいろあると思うんですけど、中でも自分が1番とっつきやすいのが文字だったんですよね。
母が習字の先生っていうのもあると思います。子どもの頃から文字にはすごく親しみがありました。

それに習字は白と黒の表現じゃないですか。
 
今でこそカラフルな作品が多く、色の感覚を褒めてもらえることは多いですが、自分としてはモノクロでも成立するものが作品のベースになっていると思います。
先ほどの話にも通ずるのですが、 モノクロのビジュアルを細分化していくと、そのマスに色が塗られているか塗られていないかの集合体。情報としては0/1の集まりなんですよね。
さっきからくどいようですが、モノクロにも一種の安定感を感じます。そういう考えが出てきたのは子供の頃から習字を母から習っていたからだと思います。
無意識にタイポグラフィーに向かって行って、今のスタイルになったのかもしれません。

ー思い入れのある作品はありますか?

どんどん更新していっています、自分の感覚と一緒に。
なので、新しく作ったものがお気に入りです、昔の作品はもう昔の自分だなって思います。だから一番のお気に入りは Nibu さんに誘っていただいた「蔵前ナイト」がきっかけでできたこれです。
 
( Shingo Nibu @Warenfaus is a factory label based in the Kuramae.)
Nibuさんもその一人なんですけど、蔵前に引っ越してきてから、街の人との出会いにすごく恵まれているなーと思っていて。蔵前の人たちと何か仕掛けていけるような、この作品はその可能性が感じられる作品です。
蔵前の人たちにも「これどこかで見たよ」とか声をかけてもらえることが多くなってきました。
蔵前という街を一つのキーワードにできた作品だと思っています。

マインドの整理

ー制作をする上で、ある企業からの依頼を受けた時、自発的ではない制作に向き合うとき、どのように行なっていますか?

基本的に進め方自体はいつも同じなんですよ。
さっき話していたような、必然性を探していって、それをカタチにする。
ただ、自分の作品作りとちがうのは、その必然性が自分の中から生まれるわけではないということ。依頼いただいたクライアントや、その商品のなかに必然性のタネがある。なので、まずはクライアントとその事業について理解するところから始めますね。
そこがデザイナーの一番面白い部分だと思っています。
と言うのも、相手がやっていることというのをできる限り自分のなかにインストールするんですよ。なんならその仕事を自分でやっているくらいの気持ちに。イタコスタイルです。笑
その人がどうしてそれをやろうと思ったのか、何がその事業の魅力なのかを自分が知る・体験することが大事だと思っています。
世間一般的には、マーケットがどうだとか、競合の分析だったりがあると思うのですが、個人的にはそこはあまり気にしていないです。
どんな仕事も一番の元を辿れば、誰かが衝動的にやりたいと思って始めたことのはずなんで。どんなことでも。
初期衝動みたいなものを自分のなかにインストールできれば、あまり他のことは気にしなくても、アイデンティティが宿るものができると思っています。

ーいい意味で大学で学んだことはそこまで意識はされていないんですね。

全く気にしてないです。
気にしてないっていうのは、その教えに反した道を行っているというわけではなくて、必要なことはもう無意識レベルで身につけているので、わざわざ意識する必要はないということです。
例えば、広告業界ではターゲット分析みたいな話がよく出ます。
この商品は何歳のこういう女性がターゲットで、、じゃあ、ここの背景の色はこの色にしましょうみたいな。

それはもうしたくないんですよ。だってそれでデザインが決まるならAIに任せた方がいいじゃないですか。
クライアントや商品、ブランド、ターゲットの中に必然性のタネはあるんですけど、それが本当に必然たりうるかを判断するのは自分じゃなきゃやる意味がないと思うんです。

その判断にこそ個性が宿ると思っているので、どんな制作でも自分の判断は主張していきたいです。

●EVENT

【MAXXED OUT × Chilly Source MARKET】
3/26(sun)@下北沢 ADRIFT

NIKE AIR MAX の誕生を記念したイベント「MAXXED OUT」とのコラボレーションイベント。
本邦初公開となるグラフィックと共に AIR MAX との合同展示を開催します。
SHINJI I.to.U さんの作品も。
https://www.nike.com/jp/experiences/details/1677640634447

撮影協力:
@mclean_diner
McLean OLDFASHIONDINER

店内は白を基調としたアンティークな雰囲気もありながらもスタイリッシュな内観。インテリアは現代アメリカンとひと昔前のアメリカンを取り入れたお洒落な空間となっており、まるでニューヨークのアメリカンダイナーのような雰囲気を楽しむことが。おすすめは PEANUTS BUTTER AND EGGMAN BURGER。

@warenfaus
Warenfaus(ワーレンファウス)

Warenfaus は台東区蔵前のアトリエを拠点にしたファクトリーブランドです。 自分達の目の届く範囲でのモノツクリを大切にし、日本製にこだわったプロダクトを提案致します。 新しいものは古いものを、古いものは新しいものに価値を与える。